高血圧症とは 高血圧はそれだけでは病気ではありません。血圧が少し高いくらいでは症状はほとんどありませんが、高血圧状態を長期間放置しておくと、脳卒中(脳梗塞、脳出血)や心臓病、腎臓病になりやすくなります。
【血圧とは】
血圧とは文字通り、血管の中を流れる血液が血管壁に与える圧力のことです。その値は二つの要因で決まります。一つは血液量、つまり血管の中を流れる血液の量です。もう一つは太い血管から細い血管へ血液が入り込むことによって起こる抵抗によってです。その抵抗は、血管の内腔の状態によって決まります。 血液は心臓のポンプ作用によって全身の血管に押し出されてきます。心臓は収縮(縮む)と弛緩(元に戻る)を繰り返しています。心臓が収縮するときに最も血圧が大きくなり、このときの血圧を収縮期血圧、または最高血圧といいます。また逆に心臓が弛緩するときの血圧は最小となり、このときの血圧を拡張期血圧、または最低血圧といいます。【高血圧の種類】
高血圧は原因のわからない本態性高血圧と、原因がはっきりわかっている二次性高血圧の二つに分けられます。1. 本態性高血圧 原因のはっきりしない高血圧症で、約9割の高血圧の患者さんが本態性高血圧と診断されています。原因が特定できないとはいえ、血圧を上昇させるいくつかの要因が複雑にからみ合って発症すると考えられています。 血圧を上昇させる要因には大きく分けて遺伝的要因と環境因子に分けることができます。
「遺伝的要因」 ナトリウムがたまりやすい体質、交感神経が緊張しやすい体質など
「環境因子 」 食塩のとりすぎ、肥満、運動不足、精神的ストレス、喫煙、飲酒など
2. 二次性高血圧 高血圧の原因となっている病気がはっきりしているもので、高血圧はその病気の一つの症状として出てくるものです。原因としては腎性、内分泌性、血管性、薬物によるものが上げられます。原因を治療することによって血圧が正常になることもあります。
【血圧を上げる要因】
1. 食塩のとりすぎ 食塩をとりすぎると、尿へナトリウムを排泄するという腎臓の能力を上回り、血液中にナトリウムがたまります。ナトリウムがたまると、水分を体に蓄えてナトリウム濃度を調節しようとする働きがあるため、循環血液量は増加し、血圧は上がります。2. 肥満 標準体重を10%以上超えて体重が増えてくると、血圧は上昇してきます。肥満は医学的には体の構成成分の中で脂肪が異常に増加した状態をいいますが、そのため末梢の細い血管は多量の脂肪で圧迫されます。その結果、流れ込む血液が抵抗を受け、血圧は上昇します。標準体重に近づけることで血圧も下がります。
3. 運動不足 私たちの体は、食べ物から得た炭水化物をブドウ糖に変え、それをエネルギーとして利用していますが、ブドウ糖を利用するときには、インスリンというホルモンが必要になります。日頃運動をしていて筋肉をよく使うと筋肉は少量のインスリンでブドウ糖の利用を高めます。しかし、逆に日頃の運動が不足していると、インスリンの効きが悪くなりインスリンが過剰に分泌されるようになります。インスリンが血液中に過剰になると、腎臓での尿中へのナトリウム排泄を抑えてしまう結果となり、体内のナトリウムが増えて血圧が上昇します。毎日の歩く距離を増やすだけでもインスリンの働きは改善され、血圧は下がりやすくなります。
4. 精神的ストレス 精神的ストレスは血圧を一時的に上昇させます。しかし、ストレスが繰り返されると交感神経の緊張状態が続いて血管は収縮し、血圧は高い状態を維持するようになります。 5. 喫煙 ニコチンは交感神経の緊張を高めるため、血管は収縮し、血圧が上昇しやすくなります。
【高血圧患者のリスク評価と治療指針】 高血圧ガイドライン2004年版
1. 高血圧患者のリスク評価危険因子とは加齢(男45歳以上、女55歳以上)、糖尿病、喫煙、冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の家族歴をいいます。
2. 治療指針
診察、検査
―130/85(正常) → 高血圧、心血管病の家族歴あれば → 年1~2回血圧測定
―血圧130~139/80~89 生活習慣修正 → 年1~2回血圧測定
―糖尿病、慢性腎疾患があれば降圧剤開始
―低リスク群 → 生活習慣修正 → 3か月後に140/90以上ならば降圧剤開始
―中等リスク群 → 生活習慣修正 → 1か月後に140/90以上ならば降圧剤開始
―高リスク群 → 降圧剤開始、生活習慣修正 → 1~2週間以内に血圧測定
―高血圧緊急症 → 入院し、降圧剤開始
【生活習慣の修正】
日常生活の注意1. 休養と睡眠を十分にとり、規則正しい生活をする。
2. 適切な体重を維持する。
3. 便秘にならないように注意する。
4. 喫煙は控える。
5. ストレスをなくすように心がける。
6. 適度の運動を毎日続ける。
7. 急激な温度差に注意する。
8. 定期的に血圧を測定する。
9. 降圧剤を処方されている場合、勝手に中断することは危険である。また薬を服用していても、生活が乱れると薬の効果は低下する。
【高血圧症の食事療法】
1. 減塩 平成8年の国民栄養調査では1人1日あたりの食塩摂取量は13gとなっています。高血圧の予防のためには1日10g以下、高血圧症の人は1日7g以下にする必要があります。減塩による血圧の低下は人によって異なりますが、平均して1gにつき1~2mmHgである。7g/日以下にすれば、降圧剤内服中の人でも降圧剤を減量できることがあります。 漬物、汁物、加工品などナトリウム含有量が多いものを控えます。調味料は食塩、みそ、しょうゆを控え、酢、酸味、香辛料を利用します。 但し、まれに減塩しても血圧の下がらない人がいます(食塩非感受性高血圧)。2. 適正体重の維持 標準体重(22×身長×身長)を超えないようにします。 肥満で高血圧の場合男で1600kcal/日、女で1200kcal/日とします。
3. 栄養のバランスを考えて、毎食、主食、主菜、副菜をそろえます。 主食(ご飯、パン、麺類)は、量を決めて毎食食べる。 主菜(良質たんぱく質を多く含む食品) 副菜(ビタミン、ミネラル、食物繊維を多く含む食品)
4. アルコール制限 アルコールは血圧を上げるので、エタノールで男は20~30g/日(日本酒で1合)、女で10~20g/日以下に制限します。日本酒は1日1合、ビールなら中ビン1本。
5. たんぱく質、脂肪 たんぱく質は食塩による血圧上昇を抑制する作用があります。またたんぱく質は血管を丈夫にする作用があります。良質のたんぱく質は魚、脂肪の少ない肉、卵、豆腐などに含まれます。1日1g/kg以上摂取する(毎食1品以上摂取する)。魚は1日1皿以上、肉は1日1皿以下とします。動物性タンパクと植物性タンパクをまんべんなく摂取します。大豆のイソフラボンはエストロジェン類似構造を持ち、血圧低下、コレステロール低下作用があります。植物油、EPA、DHAにも血圧低下作用があります。
6. カリウム、マグネシウム カリウムは余分なナトリウムを尿中に排泄し、血圧上昇を抑えます。1日の所要量は2gですが、血圧の上昇を抑制するには3.5g摂取する必要があります。腎機能低下がなければ上限はありません。野菜、肉、魚には300~500mgのカリウムが含まれています。新鮮な野菜(ほうれん草1人前0.5g)、果物(バナナ1本0.4g)に多く含まれます。1日1皿は生野菜を摂取するのが理想的です。 カルシウムは小魚、乳製品、大豆製品に含まれ、単独では血圧上昇作用もありますが、マグネシウムを同時に摂取するとこれが抑えられる。マグネシウムの所要量は男320mg、女260mg。魚介類(あわび1個140mg)、大豆製品(納豆1個30mg)、ごぼう(30mg)、ほうれん草(50mg)などの緑黄色野菜、落花生、栗などの種実類に多く含まれます。
7. 食物繊維 果物や海草に含まれる水溶性食物繊維はナトリウムを糞便に排泄させる作用があります。1日20g以上摂取する。
【塩分を控えるために】
1. 薄味に慣れる。減塩しょうゆ、減塩みそなどを利用します(しょうゆ小さじ1杯に食塩1gが含まれる。食塩は親指と人差し指でつまんで0.5g)。2. 漬物、汁物は食べる回数と量を減らします(汁物1杯に食塩が1.5g)。麺類は汁を残します。
3. しょうゆやソースはかけて食べるよりつけて食べます。
4. 酸味を利用します。レモン、すだち、かぼすなどの柑橘類や酢などを和え物や焼き物に利用します。
5. とうがらしやコショウ、カレー粉などの香辛料を利用します。
6. ゆず、しそ、みょうが、ハープなどの香りのある野菜、海苔、かつお節などを加えると薄味のメニューにも変化がつきます。
7. 香ばしさも塩分の摂りすぎを抑える効果があります。焼き物にする、炒った胡麻やクルミなどで和えるなど工夫するのがいいでしょう。
8. 揚げ物、油炒めなど、油の味を利用して食べます。胡麻油やオリーブ油をかけて食べることで風味が増します。ただし脂質の摂りすぎにならないように注意します。
9. 酒の肴は塩分が多いので少量にします。
10. かまぼこ、はんぺん、薩摩揚げなどの魚の練り製品やハムやベーコンといった肉の加工食品も塩分が多く含まれます。
11. いくら薄味でもたくさん食べれば塩分もカロリーも多くなります。
※ナトリウム、食塩換算式
ナトリウム(mg)×2.54,1000=食塩相当量(g)
【外食の注意】
めん類:つゆを残して食塩をカットします。半分以上残すことで食塩を2~3gカットできます。丼もの:一般的に味が濃く、ごはん量も2~3膳分入っています。全部食べてしまうとエネルギーオーバーになりがちです。
すし:ごはんそのものに塩味がついているので、しょうゆは最小限にします。刺身も同様です。
和食:食塩のとりすぎを防ぐために、後からしょうゆや塩をかけるのは避けます。
洋食:エネルギーオーバーに気をつけます。サラダのドレッシングを控えたり、こってりした料理のソースは残します。また、主食を選択できれば、パンよりライスを選びます。
中華:エネルギーも食塩も高め。肉の脂身、とろみのついたあんなどは控えます。
【肥満を解消するために】
1. 食事と嗜好品(菓子、ジュース、アルコール飲料)を区別し、嗜好品をやめるか減らします。嗜好品のために食事を減らすことはしません。2. 毎食、主食、主菜、副菜が適当か確認します。
3. 甘いもの、アルコール飲料の多い人は、やめるか半量にしす。
4. 米、パンなどの主食の多い人は、まず半量にします。
5. 油の多い食事を減らし、1日の油の摂取量を大さじ1杯くらいに抑えます。油を減らすためには調味法もポイントとなります。揚げ物では天ぷら、フライ、唐揚げの順にころものカロリーが高くなります。
6. 栄養のバランスのとれた食習慣を身につけます。
7. 空腹感のあるときは、野菜、海草、きのこ類、こんにゃくなどで量を増します。
8. 身体に合った適度の運動をする。まず、勉めて歩くことから始めます。